休むべきか、休まざるべきか
多くの患者さんが悩むのが、働きながら治療を受けるか、休んで治療を受けるか、その選択です。
うつ病を発症すると、精神的エネルギーの総量は減少します。治療のためには、減少したエネルギーの中から、うつ病を改善するためのエネルギーを捻出する必要が生じます。健常時のエネルギー総量を100として、仕事のために40のエネルギーを使っており(図1)、また、うつ病を改善するために20のエネルギーが必要であると仮定しましょう。
うつ病のためにエネルギー総量が70まで減少している場合、仕事を控えめにして必要なエネルギーを30まで落とし、うつ病改善に要するエネルギーである20を加える、その他にも20のエネルギーが使える、この状況であれば、ぎりぎり、働きながらでも、うつ病の改善が期待できるかもしれません(図2)。
しかしながら、うつ病が重くなり、エネルギー総量が20まで低下した場合はどうでしょうか?仕事を相当に控えめにして必要なエネルギーを20まで落としたとしても、それでエネルギーを使い果たしてしまい、うつ病改善に必要なエネルギーを捻出することはできません(図3)。つまり、働きながらうつ病を改善するのは不可能である、ということになります。
忙しく働いている方ほど、受診が遅れがちです。すなわち、エネルギー総量が相当に低下してから、治療に着手することになります。そうなりますと、必然的に、休業療養が必要な場合が多くなります。
ところが、病状が重くなればなるほど、労務負荷を軽減してもらいつつ働き続けながら治療を受けるか、休業療養するか、なかなか決めることができなくなります。労働者にとって、休業は重大事態であり、迷うのは当然とも言えますが、この決断困難は、うつ病の症状そのものであるとも言えましょう。
迷いに迷った結果、「とりあえず、働きながら治療を開始してみて、それで改善しない場合は休業しよう」という選択をされる患者さんが多くなりがちです。しかしながら、減少したエネルギーの中でなんとかやりくりしている状況では、病状の改善が難しいばかりか、悪化する可能性も高く、結局は休業療養に入ることになってしまう患者さんも少なくありません。
不調に耐えつつ働き続け、病状が限界まで重くなってから休業療養に入ると、余力を残して休業療養に入った場合に比べて、改善に要する時間が長くなってしまいます。そのため、病状の重い、たとえば、労働に対する苦痛が相当に強くて出勤が困難になりつつあるとか、思考力が低下して仕事の効率が落ちる→残業時間がますます長くなる→さらに疲労が蓄積して病状が悪化する、というような悪循環に入っているような患者さんについては、休業していただくのが望ましいと考えます。復職を可能とすべく、最大限支援いたします。