メニュー

1.症状がなくなるまで治療すること

 たとえばうつ病に関しては、症状が改善しきらず残っている場合(残遺症状あり)、再発率(医学的には再燃と再発という用語を使い分けますが、便宜的に再発とします)が高い、そして再発までの期間が短いことが報告されています(異なる見解もあります)。

 上記の研究結果は、症状が改善しきらず残っていると、残っていない場合に比べて、3倍再発しやすく、また、1/3の期間で再発してしまうことを示しています。

 私は、 産業医を務めていた頃、多くの社員に、「あなたが元来有するエネルギーを100として、最も具合悪かった時にはそれがいくつまで落ちて、現在はいくつまで戻っていますか」という質問を投げかけました。その結果として感じたのが、70では復職後早期に休職してしまう可能性が高く、85-90まで到達していればその可能性が低い、ということです。上記の研究結果に一致する印象でした。

 70と感じている社員は、「最悪の時よりは良くなったの確かだけれど、具合悪くなる前の状態までは戻っていないな・・・」という水準です。85-90と感じている社員は、「具合悪くなる前の水準までだいたい戻ったように思うけれど、仕事をしてみないと、本当のところは分からない。その分を差し引いて、85-90かな・・・」という水準です。この差が、復職後の経過に大きな影響を及ぼす可能性があるのです。

 復職を急ぎたくなる気持ちは十分に理解します。しかしながら、復職後速やかに再休職してしまうような事態を避けるためには、3ヶ月の休業療養が6ヶ月になったとしても、十分な改善を得ることが非常に重要です。

 全ての患者さんが、症状がなくなってしまう水準の改善に至れるとは限りませんが、その場合でも、可能な限りの改善を図ることが重要となります。ただしこの場合、どの水準を到達可能な最善の改善度合いと判断するかが難しいのです。治療目標を誤り、過度な薬物療法を行い、結果として副作用が発現、せっかく得られていた改善度合いが損なわれてしまうような事態は、回避せねばなりません。そのためには、時間をかけて治療を行い、時間をかけて病状を評価することが必要となります。

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME