3.自宅療養における病状改善=復職しても大丈夫、ではないことを認識すること
自宅にて特別な制限を受けることなく療養し、症状が改善してきた状況を考えてみましょう。患者さんは早期に復職したいと希望しがちですが、その時点における健康状態と、復職しても再発することなく働き続けて行ける健康状態との間には、相当に差があることを認識せねばなりません。
A.長く自宅療養していると、働いていた頃に比べて生活リズムが乱れ、遅寝遅起きになり、昼寝の習慣を獲得してしまう患者さんが、多数存在します。
すなわち、定時出勤に間に合わない時刻に起床しており、就業時間帯に眠っているのです。この状態で働き始めた場合、その時点において必要な睡眠をいきなり確保できなくなりますから、病状の悪化が相当に危惧されます。就業に支障ない生活リズムが確立されていることは、復職に際して、最低限必要な事項であると言えましょう。
B.次に、長く自宅療養していると、働いていた頃に比べて、体力が落ちます。
特に、技能系職種の患者さんは、復職後、身体的に高負荷な業務に従事することになりますので、体力が低下した状態で復職しますと、疲労に悩まされることになり、単に苦痛であるのみならず、再発を招く恐れがあります。
一方で、事務技術系職種の患者さんは体力が低下していても大丈夫か、ということになりますと、大丈夫ではありません。自宅療養している状況に比べますと、通勤、オフィス内での移動等、運動量は確実に増加します。事務技術系の患者さんでも、復職後に体力低下の影響を訴える方は少なからず存在します。通勤に長時間を要する方の場合、特に注意が必要です。
すなわち、自身の復職後の労働強度を想定し、それに応じた体力の回復を行っておくことが有用となります。
C.そして、体力が回復したとしても、精神状態が1日8時間におよび業務に集中できる水準にまで改善したかどうかは、また別の問題です。
その点を検証するために、図書館に滞在してみる方法があります。まずは1日数時間から始め、最終的には、就労と同様、1日8時間滞在するようにします。読書に集中し続けられるか、本の内容が頭に入ってくるかを実地で検証します。
「図書館なんて通常行かないし、働いている時だって本を丸一日読み続けたりしないのだから、そんなキツイことをやっても意味がない」と話す患者さんもいらっしゃいますが、皆様が実体験されている如く、働くのは楽なことではありません。精神状態が、少々「キツイ」ことに耐えられる水準にまで回復していないと、就労による苦痛感が強まり、仕事がはかどらずに焦りが募り、病状悪化や再発につながる恐れが危惧されます。
上述のように、自宅療養にて改善が得られた健康状態と、復職後に再発せず働き続けられる健康状態との間には、相当な差があります。自宅療養しているだけでは、改善度を評価することが困難であり、あえて自らに負荷を課すことが必要となります。その点を認識し、準備を整えることが、復職後に安定した就労を維持する上で重要となります。