「休業療養していたら遅寝遅起きになってしまった」への対処方法
休業療養をしているうちに、通常よりも遅寝遅起きになってしまい、それがなかなか修正できない患者さんが散見されます。こうなりますと、一般的な睡眠薬を早めに服用して早めに寝付こうとしても、なかなかうまく行きません。
まず、どうして遅寝遅起きになりがちか、ということですが、端的に申し上げますと、「朝に陽の光に当たらないから」(体ではなく網膜に)ということになります(注意:太陽を直接見つめる必要はありません。普通に外を出歩けば事足ります)。人間の体内時計は、24時間よりも長めにできています。そのままですと、少しずつ遅寝遅起きになるでしょう。しかしながら、朝に陽の光に当たることにより(室内光では明るさが足りません)、体内時計がリセットされるため、遅寝遅起きにならずに済んでいます。ところが、休業療養していると体内時計がリセットされないため、遅寝遅起きになりがちです。休業から間もない時期はうつ症状が強く、朝に起きて活動するのは困難であるため、やむを得ないと言えますが、もともと体内時計の周期が長い方では特に問題となり得ます。コロナ禍で毎日在宅勤務に従事している労働者の方々も、同様の問題を抱えている可能性が危惧されます(朝の通勤時にリセットされていた体内時計がリセットされなくなってしまうため)。
そして、睡眠薬を早めに服用して早めに布団に入っても眠れないのはなぜでしょう。それは、通常入眠している時刻の2−4時間前は、1日の中で最も覚醒度が高まり、最も寝付きにくい時間帯であるためです(この特性があるからこそ、勤務を終えたサラリーマンを客層とする飲食店の経営は成り立っていると言えるかもしれません)。最も寝付きにくいのは真昼であると思っている方が少なくないのですが、そうではないのです。この時間帯に睡眠薬を服用しても、その効果が覚醒度の高さに打ち消されてしまい、効果は得られにくくなります。
上記が相まって、「遅寝遅起きになって、それが修正できない」という状態となってしまいます。
この状態を改善するためには、光の力を借りる必要があります。具体的には、起床したら速やかに、30分程度、陽の光を浴びましょう。運動も兼ねて戸外を散歩できるとよいのですが、病状改善が不十分な場合、散歩が難しい場合があるかもしれません。その場合は、カーテンを開け放った窓に向かって座り、朝ご飯を食べてもよいでしょう。その上で少しずつ(1日15分程度、きつく感じられる場合は1日ではなくもっと間隔をおいて)、目覚まし時計を使って早起きするようにしてみます。多くの患者さんでは、この取り組みにより、遅寝遅起きを修正していくことができますが、難しい場合は、入眠困難や起床困難を改善するための薬剤を用いることもあります。
患者さんの話を聞いていると、陽の光に当たらなくなったことの問題や、陽の光に当たることの重要性は、あまり意識されていないことが多いです。光には、抗うつ効果を示唆する報告もあります。休業療養により活動の余力が出てきたら、光の力を利用することを、是非ともご検討いただければと思います。