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働きすぎによる極度の過労とうつ病の区別はつくのか

[2023.10.25]

 結論から申しますと、「その区別は、横断的には困難な場合があります」ということになります。

 前職在職中も、当院開院後もですが、相当な長時間労働に従事している社員(患者さん)に遭遇することがあります。このような状況に陥ってしまう方の多くは、一般社員ではなく、管理監督者です。一般社員は組合員であり、残業には制限が設けられるため、いわゆるブラック企業でない限り、相当な長時間労働に至ることはありません。一方で、管理監督者になりますと、組合員ではなくなり、労働時間が管理されなくなりますため、ブラック企業でなくとも、相当な長時間労働に至る場合があるのです。最近では、月間の残業相当労働(管理監督者には残業という概念が適用されないため、便宜的にこう呼びます)が160時間に達していた患者さんが来院されました。

 私の経験から申しますと、相当な長時間労働が続いた場合、おおよそ半年後からうつ病を発症する社員が生じ始め、2年が経過すると80%の社員がうつ病となります。残りの20%はいわゆる「ストレス耐性の化け物」であり、発症に至りません。昭和のモーレツ社員、といった方々です。こういった方が要職者となり、自身を基準としてマネージメントを行うようになると、部下にとっては危険であると言えましょう。

 さて、相当な長時間労働が続いた結果、うつ病の診断基準を満たすほどのうつ状態に陥った患者さんには、二つのパターンがあります。休業療養すると薬物療法なしでも順調に改善される方と、休業療養だけでは改善が得られず薬物療法が必要となる方です。前者は極度の過労状態であった、後者は極度の過労状態を通り越してうつ病を発症していた、と解されることになりましょう。いずれの場合も、症状は同様ですから、横断的には、すなわちある時点の症状だけでは、区別することは困難です。縦断的に、すなわち経過を見て、区別がつくようになります。

 ただし、症状が重くなればなるほど、休業療養だけは改善しない、すなわち極度の過労を通り越してうつ病を発症するに至った方の割合が増えます。そのような方においては、極度の過労の水準に留まっていた方に比べて、苦痛は大きく、休業療養に要する期間は長くなります。

 相当な長時間労働に従事し、不調を自覚している管理監督者の方々(のみならず全ての方々)に申し上げたいのは、症状が重くなる前に労務負荷を軽減する手を打っていただきたい、ということです。産業医が機能している事業所であれば、産業医に相談しましょう。産業医に相談しにくい環境の事業所であれば、精神科医療機関を受診して、労務を制限する診断書を発行してもらうのも、一つの方法でしょう。

 眠れない、食べられない、ひどくおっくう、考えが前に進まない、そのような状態になっているにも関わらず、「たとえどんなに苦しくても、自分が奮闘しなければ仕事は回らない」と自身を追い詰め働き続けるのは、既に正常な判断ができなくなっていると言えましょう。実際には、「自分が奮闘しなければ仕事は回らない」という状況は存在しないのです。休業者が発生した場合、事業者が代わりの人員を配置することにより、多少の混乱は生じるものの、仕事は回って行くのです。

 いかに重要な職務を遂行していようと、管理監督者(を含む全て労働者)は神や仏ではないのですから、自己犠牲までは求められません。自分のこと、家族のことを一番に考えて、心身の健康を損なわなくて済む水準で働く、それが、労働者として妥当な姿勢であると考えます。

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