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休業療養中の過ごし方

[2024.04.01]

 休業療養に入る患者さんから、休業療養中の過ごし方について質問を受けることがあります。「先生、休みに入ったら、どう過ごしたらいいのでしょうか。何をしたらいいのでしょうか。何もしないほうがいいのでしょうか。ずっと家にいるべきなのでしょうか」のような内容です。

 お話を伺ってみますと、休業することを、事業者に対しても家族に対しても非常に申し訳なく思っていることが多く、自分を責めた結果、外に出かける資格などないと思ってしまうようです。

 大前提といたしまして、患者さんは具合が悪くて休んでいるのであり、さぼっているのではありませんから、自分に罰を科すような考え方は必要ありません。

 休業療養に入る患者さんの多くにおいては、精神的エネルギーが低下しています。休業療養の当初は、何をする気力もなく、ずっと横になっていたい場合があるでしょう。その場合は、ずっと横になっているのが治療的です(ただし、食事だけは、治療薬と同様の重要性があると考えて、なんとか摂取しましょう)。精神的エネルギーの改善が不十分な段階で、「こんな不活発な生活をしているからダメなのだ。自分はあんなにゴルフが好きだったのだから、行ってみれば気分も良くなるかもしれない」のように無理をしますと、低下している精神的エネルギーをさらに減少させてしまい、病状の悪化を招く恐れが高いのです。

 だんだんと病状が改善してきたら、改善度に応じて、活動を増してゆくとよいでしょう。重要なのは、押したり引いたりすることです。活動して、「ちょっと今日は疲れてしまったかな」と感じたら、次の活動は控えめに、「なんだか気持ちがすっきりした」と感じたら、次の活動は少々増やして、という感じになります。

 十分に改善したかどうかを評価するためには、「以前に楽しめていたことを、以前と同様に楽しめるか」を確かめてみることが重要です。たとえば、ゴルフが好きな患者さんであれば、ゴルフに行きたい気持ちが以前同様に生じるようになり、そして、ゴルフ場でナイスショットをした時に、以前同様に「今日イチだ!」という気持ちよさが生じるようになれば、改善度が良好である指標となりましょう。

 これといった趣味がない、という患者さんもいるかもしれません。その場合は、たとえばテレビのバラエティ番組を見た時に、以前同様に面白く感じるかどうか指標にすることができるでしょう。あるいは、道を歩いている時に、道端の雑草が咲かせている花を見てきれいだと感じるかどうか、という指標もあるかもしれません。何が指標になるかは、人それぞれです。

 旅行が趣味の方の場合は、旅行を楽しめるかどうかが良好な改善の指標となり得ますが、注意が必要となります。なぜならば、就業規則に「休業中は療養に専念すること」等の定めがある場合、旅行を何度も繰り返したり、あるいは海外旅行に出かけたりすると、療養専念義務に違反したとして、懲戒処分を受ける可能性があるためです。実際にそのような報道がありました。

 また、休業中の旅行をSNSに投稿したりすると、同僚は忙しく働いているわけですから、反感を抱かせてしまい、復職後に働きにくくなる事態を自ら招いてしまいます。就業規則違反に問われないとしても、それ以上の問題となり得ます。産業医を務めていた頃に、そのような事例を経験しました。

 以上、まとめますと、休業療養中に自宅に引きこもる必要はなく、むしろ、病状の改善に伴い活動を増して、十分な改善に至ったかどうかを確認する必要がありますが、常識的観点から考えて過度あるいは不適切な活動にまでは至らないように心がけましょう、ということになると思われます。

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